ハートランド・データ株式会社について
ハートランド・データ株式会社は、1982年の創立以来40年以上にわたり、組込みソフトウェアの受託開発をはじめ自社製IoTモジュール開発、ネットワークオーディオ向けの各種ソリューション開発、ソフトウェア開発者向けテストツールといったソフトウェア・ハードウェアの企画・開発・販売を幅広く行ってきた。主力である開発支援ツール「DT+シリーズ」は、デバッガやprint文では解決できない動作検証や不具合解析に役立つ動的テストツールとして業界では有名。組込み開発やアプリケーション開発の環境で累計1,000を超える国内外の企業・団体に導入された。
開発支援ツールやIoTモジュール、エンジニアリングサービスを提供するハートランド・データ株式会社は、自社のニーズに合った静的解析ツールに置き換えるため、Qt Groupが提供する「Axivion Suite」(アクシビオン スイート)を導入。運用管理の負担軽減や高い投資効果、最新標準規格への迅速なキャッチアップなどを実現し、先進的で効率的なソフトウェア開発環境をさらに盤石なものにした。
Axivionを選択した理由
静的解析環境の構築が容易になりメンテナンス負担が大幅に削減
静的解析における高い有効性と投資効果が実現
最新標準規格への迅速なキャッチアップによりお客様の要求に対応
「Qt Groupが提供するAxivion Suiteは高いレベルでバランスが取れたソリューションとして構成されており、一度活用すれば手放せないツールであることを理解してもらえると思います。」
佐々木 弘樹 氏, ハートランド・データ株式会社取締役 プロダクツ&ソリューションズ部部長
課題
静的解析ツール運用で様々な課題発生、検討委員会を立ち上げ情報収集を開始
ハートランド・データは、半導体メーカの製造ライン開発で事業をスタートし、その後は組み込み系ソフトウェアの受託開発に着手。近年はソフトウェア・ハードウェアの受託開発以外にも開発支援ツールの企画・開発・販売、機能安全準拠テスト代行、統合テスト手法サポート、テクニカルソーシング(顧客の要望を満たす最適な技術の提供や機能提案を行うプロセス)などのビジネスも手掛ける。特に自社製品の中では、実行経路・変数値・波形・通信・映像など様々なデータを組み合わせて解析可能な動的テストツール「DT+シリーズ」や、組込み開発向けのテスト自動化プラットフォーム「AUTOmeal」(オートミール)は同社の看板商材として業界の注目度が高い。
同社は動的解析技術のエキスパートであるが、一方の静的解析の重要性も強く認識し、開発現場では常に実践している。2024年6月、Qt Groupが提供するAxivion Suiteを全社共通の静的解析ツールとして採用し、ソフトウェア開発のさらなる品質向上を目指している。
ハートランド・データが静的解析に取り組みはじめたのは10年以上前に遡る。それまでは開発者が自らデバッグ評価するか目視によるコードレビューを行っていたため、知識や経験、スキルへの依存度が高かった。その後、世間で静的解析の重要性が注目されると、開発委託元企業が用意したツールを活用して静的解析を行うようになった。しかし、受託案件ごとに異なる静的解析ツールが指定されるため、環境構築に多大な負担がかかる上に、ツールによっては性能や品質にばらつきがあることが課題となっていた。ハートランド・データ 取締役 プロダクツ&ソリューションズ部 部長 佐々木 弘樹氏は、「委託元から指定される静的解析ツールでは当社がベンダーから直接サポートを受けられないため、環境構築には大変苦労していました。そこで当社は独自に静的解析ツールを導入し、信頼性と運用性の高いひとつのソリューションに統一することを検討しました」と当時を振り返る。
ところが、導入した静的解析ツールにも問題があったという。例えばコスト負担である。当初は固定で契約していた利用料金が、ある時点から値上がりし、毎年コストアップされるようになった。上限なく値上がりしていくため予算申請の見直しを繰り返さざるを得なかったという。また、大口ユーザーライセンスで契約する大企業を優先するサポート対応にも不安を感じたと佐々木氏は打ち明ける。「そのため社内に『静的解析ツール検討委員会』を立ち上げ、当社のニーズに合った静的解析ツールの情報を本格的に収集していきました」
ソリューション
4つの要件を満たしたAxivion Suite、ワークショップで運用イメージも把握
様々な静的解析ツールを活用してきた経験を持つ佐々木氏は、静的解析ツールの選定は本当に難しいと指摘する。それぞれ一長一短あるため単純に比較はできないからだ。そこでいくつかの選定要件を決めた。第1はバランスだ。かけるコストと得られるメリットのバランスはもちろん、指摘数は多すぎても少なすぎても分析に支障が生じるため検知内容のバランスも重要だった。第2は導入時の環境構築に手間と時間がかからないこと。第3は様々なコンパイラやビルド環境をサポートしており、解析内容が多彩で柔軟性が高いこと。受託開発では様々な要件が求められるため、最新の規格に対応していることも必要だった。そして第4は大口ユーザーでなくても日本のエンジニアを窓口として日本語での充実したサポートが受けられること。その全ての要件をクリアしていたのがAxivion Suiteだった。
特に選定過程で有益だったのが、Qt Groupが独自に提供している「PoV(Proof of Value)ワークショップ」だ。これは、お客様の開発環境(オンサイトまたはリモート)でAxivion Suiteを実際に試用し、ソースコードの隠れた問題を発見するための限りなく実践に近い検証プログラムのこと。Qt GroupのエキスパートエンジニアがAxivion Suiteを使用した場合のROI(投資収益率)をお客様のソフトウェア開発チームと共に評価・サポートし、ソフトウェア開発プロジェクトの実効性を分析する。ハートランド・データ プロダクツ&ソリューションズ部 アプリケーションプロダクツ課 藤澤 悠太氏は、静的解析ツール検討委員会のメンバーとしてPoVワークショップにも参加した。「自社製品を含めた4つのプロジェクトを試して良好な結果を得ることができました。また、導入までの時間や難易度、作業量も把握する必要があったのですが、PoVワークショップのおかげで実運用のイメージが掴めた上に、Qt Groupからは手厚いサポートを受けられたので信頼を深めることができました」と藤澤氏は述べる。
成功
最新の標準規格を常にキャッチアップし、要求とのギャップやタイムラグを解消
2024年3月、Axivion Suiteの採用が正式に決定。6月から実際のプロダクトで静的解析の運用が開始された。現在は自社開発製品全てにAxivion Suiteを活用して静的解析を実施し、受託開発については委託元の取引条件や内容により指定のツールでエビデンスを残す必要がある場合を除き、Axivion Suiteを使って静的解析をかけるよう社内でルール化している。
本格運用開始から数ヶ月経過し、既に次のような効果が確認されているという。
1つ目は、運用管理者の負担軽減。以前の静的解析ツールは認証サーバが必要で、新しいバージョンをインストールする際には別のサーバを用意しなければならず、さらに新旧サーバー間で解析データを移行している間は新たな解析が実行できないなど、メンテナンス作業が管理者の大きな負担となっていた。Axivion Suiteではライセンスキーがあれば端末上で安全に利用でき、解析データの移行も短時間で完了するため、環境構築の負担が以前より格段に削減できたほか、メンテナンスの負担も大幅に軽減した。
2つ目は、静的解析における高い有効性とコストパフォーマンスの実現。Axivion Suiteは隠れ依存性やコードクローン、メトリクス違反、スタイル違反、デッドコード、循環依存性のほか、バッファオーバーフローやリソースリークなどのランタイムエラーも検出できる。それらは役立てられ、実際に修正も行われており、高い投資効果が得られるようになった。
3つ目は、最新標準規格への迅速なキャッチアップ。以前の静的解析ツールは最新の言語や規格への対応が遅くなるケースがあり、お客様からの要求とのギャップやタイムラグが心配だったと佐々木氏はいう。「Axivion Suiteはそうした対応がスピーディな印象です。実際にC言語の最新コーディング標準であるMISRA C++:2023をいち早くカバーしているほか、アプリケーションのバージョンアップも毎月のように行われています。常に最新の技術をキャッチアップできているのは大きな安心感につながっています」と佐々木氏は評価する。
Axivion Suiteのカスタマイズ性を活かし、社内プロセスに合った環境構築を模索
Axivion Suiteの今後の活用計画について、同社ではDT+シリーズやAUTOmealの開発プロジェクトで導入する2つのCIワークフロー構想を描いている。第1段階では、各開発者が自分の端末で開発を進め、それを構成管理ツールのGitLabにマージする前にAxivion Suiteによる静的解析をかける。その解析の差分を見て、自分の変更を入れたところで重大な指摘が出ていないかを確認し、必要に応じてコードの修正を行ってから、マージを完了するという流れだ。
次の第2段階では、開発者がローカルで解析するのではなく、GitLabにプッシュして最終的にマージする段階で自動的にサーバ側に置いたAxivion Suiteで静的解析をかけ、結果も可視化できる運用を考えているという。
藤澤氏は、「Axivion Suiteはカスタマイズ性が高く、様々な使い方ができそうなので、今後は更に当社の社内プロセスにマッチした環境構築を模索できるのではないかと感じています」と期待する。
そして佐々木氏は、「国内で当社のような規模の会社が静的解析ツールを導入しているケースはまだ少ないようです。その効果を体感していないとコストをかける重要性を理解するのが難しいからかもしれません。しかし、今後は普及が拡大していく可能性が高い分野だと思っています。中でもQt Groupが提供するAxivion Suiteは高いレベルでバランスが取れたソリューションとして構成されており、一度活用すれば手放せないツールであることを理解してもらえると思います」と語る。
常に先進的なソフトウェア開発、開発プロセスを導入し続けるハートランド・データによるAxivion Suite導入は、今後業界におけるソフトウェア品質保証の意識改革を進めるマイルストーンとなるかもしれない。