デジタルエクスペリエンスの未来形 UIフレームワーク基盤

 

本稿は「Shaping the Future of Digital Experience - UI Framework Foundations」の抄訳です。

豊富な機能、信頼性、接続性、シームレスなパフォーマンス。これは最近のユーザーが思い描くデジタル機器ソフトウェアのイメージです。ユーザーの期待値は常に高まっています。スムーズなユーザーエクスペリエンス、印象的なビジュアル、カスタマイズ性、マルチプラットフォームでの操作性などが、役割を果たすだけの製品と、新たなマーケットスタンダードを生み出す製品との間の差別化要因となってきています。

優れたデジタル機器では、魅力的なビジュアルが優れた機能を包み込み、シンプルで自然な形でその機能を発揮しています。実際のところ、わかりやすいユーザーエクスペリエンスや整ったビジュアルの下には、ソフトウェアアーキテクチャの複雑性が隠れています。UIやUXのデザイン、コードの行数、サードパーティーのソリューションやバックグラウンドサービス、テスト、バグフィックス、パフォーマンスの最適化など、最終的な結果に至るまでの作業量は、多くの人にとって想像を絶するものとなっています。

ソフトウェア開発者やマネージャーは、人間の感覚や能力を自然に拡張したような製品を提供することが、いかに複雑で困難なことであるかを知っています。そして、適切なツールを選択すれば、生産コストや市場投入までの時間を短縮できるだけでなく、企業全体の成功を確保する上で大きな違いを生むことも知っています。

Qt Groupでは、このような複雑な問題に30年近く取り組み、あらゆる種類の電子デバイスで革新的なデジタル体験を生み出すために、UIフレームワークに必要とされる主要な機能を洗い出してきました。Qt フレームワークは、ワイヤーフレームが紙に描かれていた時代の UI アプリ作成のパイオニアでした。ユーザーエクスペリエンスがリアルタイムの共同コンテンツオーサリングツールによって定義される今日、Qt はデザインをフルに機能するアプリケーションに自動的に変換し、没入型 VR 環境で検証できるようにします。

この連載について

この連載では、ソフトウェアや産業分野の開発者や管理者向けに、アプリケーションやデバイスの作成に最適なツールチェーンをご案内します。UIアプリケーションの作成に関連性の薄いツールや限られた部分しかカバーしていないツールに時間や労力を費やす必要はありません。人目を引くビジュアルと魅力的な機能で多くの人を魅了する、高性能なアプリケーションを作成するために必要なツールやリソースをご紹介します。

UI作成の基礎となる要素を整理した後、組み込み機器におけるパフォーマンスの最適化と品質保証、UIに躍動感を与える没入体験の創出における2D・3Dグラフィックスの役割、そして「プラットフォーム思考」と呼ぶ、デザインから導入までエンドトゥエンドの提供を保証するためのワークフローと規律、最後にUIアプリケーションの大量生産のための接続性やその他の要件について解説します。

UIフレームワーク

UIアプリケーションに関わる豊富な機能やサービスを開発するには、デザイナーやエンジニアがUIアプリケーションを作成するための基盤として汎用的な機能やリソースを提供する開発環境が必要です。UIフレームワークは、UIデザイナーとバックエンド開発者の双方に、製品のビジョンを最大限に実現するためのクリエイティブな環境を提供します。

デザイン面では、コンテンツオーサリングツール、アセットライブラリ、データバインディングメカニズム、ステート管理ツール、設定変更できるグラフィックや視覚効果、エミュレータ上でのリアルタイムプレビューやテストなど、最終製品のユーザー体験を工夫するための要素が含まれています。

開発者向けには、リファレンスコードやリファレンスアプリケーション、API、コンパイラ、プロファイラ、コードツールセット、ライブラリ、接続プロトコルのサポートを提供し、デザインやプロトタイプをフル機能の、将来性のあるUIアプリケーションに仕上げます。

フレームワークの各機能は、開発者のコーディング量を減らし、市場投入までの時間を短縮し信頼性を向上させます。ウィザードはプロジェクトの段階ごとにユーザーをガイドし、必要なファイルの作成や依存関係の解決、ユースケースに基づく設定を行います。また、セマンティックハイライトやシンタックスチェック、オートコンプリート、リファクタリングアクションなどの機能は、高品質なコードを迅速に作成するのに役立ちます。

フレームワークの完成度が高ければ高いほど、ソフトウェア開発の全段階で、デザイナーや開発者が実現するために必要な作業が少なくなります。包括的なフレームワークを採用することで、ユーザーは煩雑な作業やエラーの起こりやすいルーティンワークから解放され、本当に重要なこと、つまり究極のユーザー体験に集中できるようになります。

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UIフレームワークは、ツールや機能を提供するだけでなく、UIアプリ作成のための共通APIを提供し、ハードウェアやオペレーティングシステムの詳細を抽象化するミドルウェア、つまり中立的な開発環境として機能します。この互換性レイヤーは、アプリケーションとプラットフォームの間のブリッジとして機能し、各環境でネイティブなユーザー体験を提供します。

クロスプラットフォームでの導入

今どきのソフトウェアアプリケーションは、さまざまなデバイスで利用できます。スマートフォン、タブレット、ノートパソコン、デスクトップなど、長い間発展してきたクロスプラットフォームのアプリケーションエコシステムが存在します。さらに、最近では、以前はアナログだった家電製品もデジタル化され、豊かなデジタルUIと新機能が追加されるようになりました。

わかりやすい例として、遠隔操作やクラウドサービスによって家電製品の機能を拡張するコンパニオンアプリはがあります。同様のユースケースは産業、医療、自動車分野でも見られ、異なるフォームファクター、様々な計算リソース、異なるハードウェアやOSを持つ環境でもほぼ同じユーザーエクスペリエンスが提供されます。

クロスプラットフォーム・ソフトウェア開発は、幅広いユーザビリティ、追加機能、市場牽引力を確保するために、様々な産業分野で必要不可欠なものとなっています。これは課題であるかのように思えるかもしれませんが、実際のところ、適切なツールさえあれば新たなビジネスチャンスになります。

コードをターゲットごとに書き直すのは現実的ではありません。代わりに、プラットフォームに依存しないフレームワークを使用することで、一度コードを書いて多くのプラットフォームに柔軟かつ効率よくデプロイすることができます。UIフレームワークはミドルウェアとして機能し、クロスプラットフォームの開発インターフェースを提供し、ファイルシステム、コネクティビティ、入出力/センサーなどのシステムリソースにアクセスするための機能や、UIエレメント、ネットワーキング、データ管理などの一般的なタスクのためのビルド済みコンポーネントを提供します。

ワークフローの観点では、このフレームワークはフロントエンド開発者とテクニカルアーティストに統合されたデザイン/開発環境を提供し、ユーザーエクスペリエンス全体の構築やデータの接続とバインディングの実装を支援することで、洗練されたアプリケーションを構築します。品質保証の観点では、自動テストやデバッグ、プロファイリング、コードの最適化に関するリソースも提供されます。また、あらかじめ定義されたパッケージングソリューションで、さまざまなハードウェアタイプやオペレーティングシステムへの展開が容易になり、各ターゲットでの最適なパフォーマンスが確保されます。

複数のプラットフォームを対象とする際の複雑さは、包括的なクロスプラットフォームUIフレームワークを使用することで軽減できます。このアプローチを取ることで、コンパニオンアプリのようなクリエイティブ面と効率性の、両方での利点が得られます。Qtの場合、「一度コーディングすればどこでもデプロイ」できるので、コストと市場投入までの時間を削減し、ハードウェアサプライヤーに依存しない柔軟性、そしてBOMを削減することでハードウェアソリューション間での拡張性を実現します。クロスプラットフォームデザインは、エンドユーザーとブランディングにとって重要であり、均一なユーザーエクスペリエンスを提供し、製品ポートフォリオ全体で一貫したルックアンドフィールを実現することでブランドアイデンティティを強化します。


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