10月24日から3日間、ドイツのミュンヘンで第8回目となる Qt Developer Days を開催しました。Qt Developer Days は Qt の開発者やユーザー、パートナーなどが参加をし最新情報の発信をしたり交流を深めるための年に一度のイベントで、ミュンヘンとサンフランシスコで開催しています。
今年も多くの方に参加をしていただき、昨年 を上回る盛り上がりでした。
例年どおり、初日は一日を通して Qt のトレーニング が行われました。また、夜にはウェルカムパーティーが開催され、世界中から集まった参加者同士の交流が行われました。
二日目は 基調講演 からはじまりました。
Nokia の Developer Experience 担当の上級副社長 Marco Argenti による「Qt in the Broader Nokia Strategy」というセッションでは Nokia の戦略の中で Qt がどのような位置を占めるのか、Qt を活用して何を実現するのかという話がありました。この講演の最後には、参加者のネームタグに貼られていたシールの色(赤か青のどちらか)をランダムに選ぶ簡単なプログラムによって、対象者に Nokia N9 をプレゼントするというゲームも行われました。
Ubuntu の Director of Engineering, Rick Spencer 氏による「Qt's brighter future on Ubuntu」の中では Canonical 社が考えるオープンソースプロジェクトやコミュニティの理想の姿や、Ubuntu の中でどのように Qt を利用しているのかという内容でした。Ubuntu に含まれる Unity 2D は Qt Quick で開発された様々な環境で動作するデスクトップシェルですが、様々な開発環境を検討した中で自分たちの要求を最もスマートに実現できるツールとして Qt Quick を選択したというお話でした。また、これ以外にも Ubuntu には既に多くの Qt アプリケーションが含まれていて、Qt でアプリ開発をされた際にはぜひ こちら にて登録/公開をして欲しいとのことでした。
休憩を挟んで行われた CNN 社のモバイル部門担当 Louis Gump 氏による「Mobile News on a Global Scale, CNN」という講演は、CNN がニュースを届ける対象がテレビなどの既存のメディアからモバイルに大きくシフトしてきているという現状や、様々なモバイル端末にどのような形でニュースを届けるのか、また、それによってどのように収益をあげているかという内容でした。CNN のモバイルサイトはアメリカ国内では四年連続ナンバーワンのアクセス数で、アプリは世界中からダウンロードされ、最近はインドや中国などからの Nokia の Symbian 端末向けのアプリのダウンロード数がとても多いということでした。
最後の講演は Nokia の Qt のチーフアーキテクト Lars Knoll による「Qt Roadmap, Open Governance and Qt 5」でした。先日スタートした Qt Project の現在の状態やプロジェクトの構成、今後の予定についての解説に引き続き、Qt 4.8 および Qt 5 のロードマップについて話がありました。Qt 4.8 では QPA(コードネーム Lighthouse) と呼ばれるプラットフォーム抽象化の仕組みが導入されることにより、様々なプラットフォームへの移植が以前と比べて簡単になります。その他、Qt Quick でのピンチエリアのサポートや RTL の対応や、いくつもの分野でパフォーマンスの改善がなされ、今年末のリリースを予定しています。来年前半にリリースを予定している Qt 5.0 では QML を UI 開発の中心とし、様々な研究を元に Qt Quick を高速化していく方向で開発が進められています。これまで Qt Mobility という別プロジェクトで進められていた機能拡張も Qt 自体に取り込み、幅広い機能に対応する方向で進めています。また、一般的な機能を「Qt Essentials」という名称でリリースする以外に、「Qt Add-on」として Qt Quick 3D などの様々な機能を提供していくことを予定しています。
Day 2 の午後からは 技術トラック と ビジネストラック に別れ、様々なトピックについてのセッションが行われました。
Qt 4.8 から採用される Qt Platform Abstraction(コードネーム Lighthouse) に関するセッションや Qt 5 の目玉となる Qt Quick 2.0 のセッション、Qt 5 ではアドオンとして提供される予定の Qt Quick 3D に関するセッションなどが行われ、最新機能の解説や完成度の報告などが行われました。最新の機能を使うサンプルをライブコーディングで実装しながら、その機能について解説していくという素晴らしいセッションがいくつもあり、非常に面白い内容でした。
これらのうちの多くは Qt Labs Japan のカテゴリ「リサーチプロジェクト」にて関連する日本語の翻訳記事を読むことができますので、興味のある方は是非ご覧ください。
日本からはイーソル株式会社の権藤様が eT-Kernel from eSol と題して Qt for T-Kernel についての講演をされました。
組み込みでの RTOS への要望は多く、Green Hills Software 社による Qt for Integrity の話と合わせて多くの方が聴講されていました。Qt for T-Kernel の展示もあり、多くの方が立ち寄っていました。
これらの最新の機能以外にも HTML5 に関するセッションや Qt Mobility の様々な機能に関するセッション、Qt Creator などの開発ツールに関するセッションや、マルチスレッド や 描画のパフォーマンス のような実際の開発で問題となりがちなポイントに関するとても役に立つセッションなどが行われました。各セッションの様子はすべて録画されていて、後日公開する予定ですのでお楽しみに。
こちらは "Qt in Use" のサブタイトル通り、実際に Qt を採用している企業の方々が経験談を語るトラックです。今年は Cisco、Ricoh、AccuWeather といった有名企業の講演がありました。Qt/Qt Quick を使った UI 開発についての話が多いのですが、中には Cisco 社の 全く UI が無いプロジェクトで QtCore と QtNetwork のみを使った という面白い話も聞けました。
会場には展示スペースも設けられ、パートナー企業の展示や Qt チームによる展示、Qt Ambassador Program を通して登録された Qt アプリの展示も行われました。
Day 2 のセッションが終わった後には、Happy Hour と呼ばれるイベントが開催され、美味しい料理をいただきながらアトラクションを楽しみました。
今回のミュンヘンでの Qt Developer Days も非常に内容の濃い充実したイベントでした。このイベントに参加し、様々な方と話をして改めて感じたことは、世界中で Qt の利用がますます広がっていて、コミュニティも拡大し、ビジネスも拡大し、なにより Qt を使っている方々が本当に Qt を楽しんでいるということでした。
Qt Developer Days は11月29日から3日間、サンフランシスコでも開催します。こちらはまだ 登録を受付中 です。
また、日本でも12月15日、16日と Qt Developer Conference Tokyo 2011 というイベントを行います。Qt Developer Days の興奮をそのまま日本のみなさんにお届けできるよう準備を進めていますので、是非参加をしていただければと思います。